【M&A売り手側】事業譲渡のメリット・デメリットは?
事業譲渡はM&Aの手法の1つで、売り手側の会社の事業の一部または全部を買い手側の会社へ譲渡することです。売り手側としては、事業承継の問題や雇用・取引の維持といった目的で行うケースが多いでしょう。中小企業が行っている手法ですが、メリットとデメリットがあります。そこで今回の記事では、売り手側からみた事業譲渡を解説しましょう。
事業譲渡で売り手側が得られるメリット
■譲渡する事業を選択できる
赤字の事業や主ではない事業を切り出して売却することにより、残された事業に専念することが可能です。
■現在の従業員の雇用を継続できる
一部の事業は譲渡しても、残った事業の従業員の雇用はそのまま継続できるのです。また、買い手側の会社に移った従業員は、買い手側が必要としている人材が多いので、移った会社で解雇される可能性は低くなるでしょう。
■売却で得た資金を残した事業の強化に回せる
事業譲渡で得た資金で、売り手側の事業基盤を補強できます。
■売却で得た資金を新規事業の立ち上げに回せる
いつでも新規事業の立ち上げに対応できるように準備しておくということです。
■ブランド名を残せる
一部の事業を売却しても、残った事業は同じブランド名で継続でき、たとえすべての事業を売却したとしても、新規事業に同じブランド名を使える可能性があります。
■売却で資金を得られる
自社が譲渡する事業への評価が高ければ、買い手は高値で買ってくれることになります。この売却益による資金を、さまざまな形で活用できるのです。
■後継者問題を解決できる
現在日本の中小企業は、後継者問題が深刻化しています。事業譲渡によって問題が解決されることにより、これまで育ててきた事業を存続させられるのです。
事業譲渡で売り手側にかかるデメリット
■事業譲渡には株主総会の議決が必要である
事業譲渡の手続きは、特例を除いて原則株主総会の特別議決が必要になりますが、そのための手間とコストがかかります。
■煩雑な手続きがある
事業譲渡は事業承継のような包括的なものではなく、個別に譲渡手続きをとることが必要です。
■従業員の承認が必要
従業員も事業と同時に譲渡する場合、従業員一人ひとりに承認を得る必要があるのです。従業員数が多いほど手間や時間がかかります。また優秀な従業員が離れていかないよう、充分にコミュニケーションを取っておくことも必要です。
■取引先の承認が必要
取引先に対しても承認をもらう必要があります。取引先の数が多かったり、交渉が難航したりすると労力が必要となるでしょう。
■負債や債務が残る可能性がある
債務は原則として売り手側に残ることになります。債務を限定して引き継ぐことはできますが、その場合は手続きが大変煩雑になってくるのです。
■譲渡会社に競業避止義務が定められている
競業避止義務とは、譲渡後同一の市町村およびその隣接市町村の区域内で、20年間は譲渡した事業と同じ事業を行ってはいけないという規定です。違反すると罰則があります。
■売り手側の譲渡による利益に対して法人税が加算される
売り手側には約30%の法人税が課せられるので、大きな負担となるでしょう。
事業譲渡の注意点
事業譲渡は債務や税金に関するリスクなど、注意する点があります。注意点を踏まえたうえで、慎重に事業譲渡を進めていくようにしましょう。
■事業承継ができないかを再検討すること
経営者が亡くなったという理由で事業の譲渡を考えている場合は、再度、親族や従業員などが事業を引き継ぐことができないか、つまり事業承継できないかを確認しましょう。事業譲渡は、事業承継に比べて手続きが煩雑なうえ、株主や債権者などの承認も得にくいのです。
■売り手側の会社が経営不振の場合は要注意
事業譲渡による債権者への不利が発生した場合、譲渡が差し止めになる恐れがあります。さらに、売り手側の算定価格が想定以上に安い、ある債権者への返済理由で事業譲渡を行った場合、債権者から事業譲渡の取り消しを求められるリスクがあるのです。経営不振の企業と事業譲渡契約を結ぶ場合は、とくに注意が必要となります。
■税金の額を事前に計算しておくこと
事業譲渡には税制の優遇がないため、不動産取得税や登録免許税などの税金が発生し、負担が大きくなりがちです。売り手側は譲渡益にかかる法人税が、買い手側は引き継いだ財産に消費税がかかってきます。このように、支払うべき税金を事前に計算しておく必要があるでしょう。
メリット・デメリットを考慮すると、事業譲渡に適している場合と適していない場合があるのです。また事業譲渡の手続きを進めるにあたっては、上記のような注意点があります。事業譲渡にあたって、ある程度の知識がないと不利な条件を受けてしまい、交渉がうまくいかないこともあるでしょう。基本的な知識を習得するとともに、経験豊富なM&Aの仲介業者に早めに相談しながら進めていくのが確実な方法ではないでしょうか。